(多分僕は僕で期待していたものがあったのだ。そして彼は彼で期待していたものというのがあったんだろうと思う。彼は全然そういうのを話してはくれなかったから詳しいことはわからないけれど、それでなければどうして僕らがくっついたのか説明できないし、だから彼もまたそうであったのだと僕は思っている) 鬱陶しいとほんの一瞬でも感じたり、うんざりしたからというのではなかった。飽きてしまったのだ。なんだか面倒くさくなった。それをお互い感じ取っていた。 「隣、い?」 「ああ、どうぞ」 言って、積み重ねた皿を横にどかしラビの分のスペースをつくった。量は朝食ということもあってそんなに多くもなかったので、ラビもすんなりトレイを置いた。 「さんきゅ」 「いーえ。今帰ってきたんですか?」 口を大きく開けてラビが欠伸するのを見て、寝てなさそうだと思った。彼は朝にそれ程弱いという訳でもなかった筈だった。 「そうそう、また次のがあるから、いっそいで戻ってきた」 「へえー。僕も午後から。」 「ほー。今日はどこまでいくんさ? …………」 ラビとアレンは他愛もない会話しかしない。次の任務はどこまで行くとか、道中の暇潰しについてとか、たまに怪我の具合を尋ねたり鈍くさいなとからかい合ったり、そんなものだ。 生きている場所が場所であるから、真っ当な十代の暮らしを、ふたりが知らないというのもある。 「…………だよなあ、やっぱり」 「まあね」 「……あー、ところで、お前さ」 「はい?」 暫くその他愛なさをもって繋いできた会話が一区切りついたとき、ラビは言うか言うまいか歯切れ悪い口調で狂わせた。 「ユウと、……その、さ」 「別れたっていう話?」 あっけらかんとしてスパゲティをつるつる唇の上を滑らせるアレンを、ラビは少し意外そうに見た。これだけあっさりと口に出すことができるのに驚いたのかもしれない。 「……結構、平気なもんなんさね」 「うん」 うまく目が合って、手を繋いで、最後には別れてしまう―――破局なんてそう珍しいことでもなんでもない、アレンはずるり、最後の一本まで綺麗に吸い込んで、フォークを置いた。 「珍しいとか珍しくないとか、そういう話じゃないだろ」 「僕にとっては、そういう話だから」 「……お前が切ったの?」 頬杖をつきながら、若干呆れたように。ほんの少しでも気遣った自分が馬鹿みたいだ、と思っているに違いないという顔をしていた。 「……どうだっけ」 「おまえ、お前さ、!」 本気で覚えていなかった。ただ気づけばどちらともなく、はいじゃあ終わろう、このなんだか知らない関係はこの場をもって終わり! という風に、アレンは食堂、神田は自室へとさっさと別れてしまった。そして本当に、それからまともに顔をあわせていない。 「……だらだら続けるのは性に合わないし、恋愛って結局、いつかは破綻するものだよ、ラビ」 何か悟ってしまったような風情でアレンは言った。 「だってそんなの、さあ、」 「じゃあキミは例外を目指せばいいんじゃないですか。よくわからないけど」 アレンが見つけた恋愛の終末を、ラビがやるせない目で異論を唱えようとするのはただ自分を、ラビ自身の行く末を案じているからだと思ったら、自分でも驚くくらい不貞腐れたような声が出た。 (080523) むずかしいね、れんあいって。 |