「どうしたの、随分やられましたね、」 赤い血糊のついた頬を、背の高い方の男は手の甲で拭った、赤い月の下。 「ねえ、気づいていないようだから言っておくけれど、そこにもべっとりだよ」 「あれ、」そこでやっと、頬の汚れを拭き取った筈の手も血みどろであることに気づいた風に、しぱしぱと、目を何度か瞬いた。 「まあ、いいや、いいんじゃない、こんなの、」面倒だから、うん。 男は頷いて、傍らの少年の伸ばした手から逃げるように歩き始めた。 「もう、キミ程いい加減な人、見たことない」 「あっそ、それは、得したさね」 「……何が得なの……」 心底わからない、といったように少年は男の後をついて歩いた。 「ねえ! ラビ、それより、ちゃんと殺した? また変な同情で、相手、」 「殺した殺した、大丈夫、だいじょうぶ、任務遂行、オレは依頼主さまとアレンの言うことはちゃんと聞きます」 (……嘘吐き)、アレンはぶすりと頬を膨らませた。 ラビは以前にも同様のことを嘯き、あっさり覆した前科があった。 その度に後始末を押しつけられるアレンとしては、ラビの勝手な行為を厳しく抗しなければならなかった。 「……女性と、子供に弱いんだから……キミの悪いところ! 自覚してよね」 「あー、うん、ごめん、てかオレ、お前にも甘いよ、したら」 「僕が子供って言いたいんですか? 残念ながら、僕は立派な、おとなです」 「十五が何言ってんだか」 街灯と街灯の間にできる暗がりも、それらの光に照らされるときも、ふたりは鈍くさい足取りで進んだ。 急ぐ理由は特になかった。 追いかけてくる人間もいなかったからだ。 「……たったみっつしか違わないくせに、」 「みっつ、も、違うの。三年は大きいさ」 「何、それは、仕事に対する責任感とか? もしくは、同胞に対する、冷徹さ?」 囁かれた皮肉にラビは少し笑っただけで、簡単にいなしてしまった。 「お前も、馬鹿だな」 「すみませんね、馬鹿で。十五年生きてきて教わったことは、人の壊し方だけですから」 「やっぱ、馬鹿だな、いや、可哀想って言うべき?」 「どっちもごめんです、……いえ、別に、その言葉に何か思う訳でもないし、なんて言われたって、構いやしないんですけれど、ね」 「オレはー、お前に、できることなら、全部忘れてほしいなって思う」 「もう遅いよ」 もうおっそいよ! アレンは、いつになく明るい声で言い放った。それはアレンのよくする、虚勢かもしれなかった。 「眩しいなあ」 夜が明ける間際の話。黎明の光が、目に痛かった。 080515 ふたりは請負屋。なんでも広くこなします。 |