きみの破滅を夢みたぼくは、きみの破滅を試みた
DとR




エンドレス。そうエンドレス。神さまがオレに罰をお与えになったから、それは止まることを知らなかった。一瞬の殺意? 言い訳になるか、そんなもの。だから、エンドレス。だから、オレは甘んじて。


鍵穴に鍵が入った音の後には、当然のごとく施錠される音もして、ひとり、中へ足を踏み入れる気配もした。彼は家主だった。
気が知れないと思う。どこの誰かも知らない、端的に言ってしまえば、得体の知れないオレを置いて家を空けるなど、常識から考えておかしいと思う。けれどそれに、オレは助かったなんて思ってしまっていて。家主は何も言わずオレの横を通り過ぎていく。白いコンビニ袋の色は、薄暗い部屋中でもよく見える程だった。まだ若いのに彼はひとりで暮らしているらしい。感心する。オレと同じくらいの歳? この差は、なんだ。この差は、なんの、今までの生き方が悪かったとでも、おっしゃる? そう、神さまはよく見ている、から。――そんな馬鹿な。
食え、という意味なのだろうか、彼はたった今買ってきたらしいおにぎりをひとつ、オレに投げてよこした。口を聞くことも億劫で、居場所と食べものを恵んでくれた感謝は胸の内で済ませてしまう。
逃げ続けるのには体力がいる。嘘を吐くのにも、それを隠し続けるのにも体力がいるし、人を殺すのにも、体力はいる筈だ。オレの過去はオレだけのものにはならない。いずれ暴かれる日がくるのだ。そう思うと、喉が塞がる気がする。息が止まる、気がする。自分のしでかしたことなのに今更怖ろしくなってしまって、噛み砕いた米粒がなかなか飲み込めなかった。
お互いが何も発しない。彼は距離を取っているし、不用意に近づいたりしてこない。賢明だ。それに比べて、オレはなんて馬鹿だったのだろう。なんてことをしてしまったのだろう。あかるいせかいでいきていけない。神さまが怒るのも、また当然のこと。
不意に、「……好きなように使え」なんでも、と彼は言った。オレはただ隅の方で縮こまっているよりなかった。だから彼がどんな顔をしてそのようなことを告げたのかわからない。ただ、やはり彼はおかしいと思った。オレになど言われたくないだろうけれど。
彼は次に、寝転がるという行為を取った。薄い背中が窺える。すぐに規則正しい寝息が漏れ始め、彼は本格的に寝入ったようだった。この状態で、寝るのか。もう何度も思ったことだから、それ以上は何も言わないことにする。大体が、異常と思われるのはオレの方だ。
これからどうするべきか? そんなことは知らない。誰にも訊けない。オレはこれからどうするべきなのかなんて、誰に訊けばいいというのだ。与えられた答すべてが正しい訳でもないのに。答があるかどうかも定かではないのに。ただひとつだけはっきりとしていることは、オレはどこかで間違ったということだけではないのか。道を踏み外してしまった。ふとした拍子にうっかりと。うっかり? そんな言葉で片づけられては、たまったものじゃあないだろう。

腕を持ち上げる。関節を伸ばす。手を広げる。指を這わせたら、彼の首はあたたかかった。オレの指先は一寸前まで冷水に浸していたみたいに、冷たかった。「何も訊かないのは、なんで?」オレは、問う。何をすべきか、ではない。これは、ずっと、思い続けていたことだ。馬鹿みたいにお人よしなのか、興味本位なのか、なんとなくなのか、ただ捨て猫を拾うのと同じ心境だったのか。「お前もオレに殺されちゃうのかもしんないのに」もうずっと、流れている映像。「どうなっても知らないよ」
彼は、やっと目蓋を気だるそうに持ち上げた。真っ黒な瞳で、見るともなく、オレを見る。何を考えているのかまるで読めなかった。「どうして何も言わないんさ」殺されかけているのに?
オレがはじめて人を殺してしまったときと同じ。そのときも、首を絞められているというのに、抵抗すらしようとしなかった細い四肢。同じ眼差し。最後まで口を閉ざしたままだったのも、同じ。これはデジャヴ? エンドレス・ストーリー。オレが主演じゃ、客なんか入らないな、
「なんか、言えよ……なんでもいいから……」
逃げる口実にできれば、なんでもいいよ。

(091026/拍手ログ/何故ラビと神田かというと、ラビアレばっかじゃ駄目だ! と思っていたから)



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