070913
「アヴェ・マリア、拳銃片手にどうしたの」




がつんと心の中で何か折れたか、もしくはぶつかり合った音がした。しかし音は音で、自分に何か変化があったかと一応身体中見渡してみるけれど、そんなものどこにもなくて少し焦る。よくよく考えてみれば、そうだ、そんな音どこにもしなかった。つまり空耳というやつだったのだ。そう結論づけてしまえばもう簡単、残念なことに何故か直感は確信へと変わってしまった。(ん? もしかすると本当に音はしたのか? オレのなかの何かが折れた音が、もしかして)。へっくしょん! 誰か噂してやがる、くしゃみが三連発。ずびずび鼻水啜ってティッシュを探すも周りには紙なんてどこにもなかった。ついてない。
「それは君が言うことか?」
どうだろうか、しかし別に違っていたとしてもオレにはなんの支障もない。ああけれど、くしゃみの弾みで弾が飛び出なくて助かった。ここで死んでもらっちゃ困る。これを目の前にしても未だ余裕綽々の三十路さんをこらしめてやらなければ、オレは死んでも死に切れない。そういう意味では、ついてないのはオレではなくて、この三十路さんなのかもしれない。英雄だかなんだか知らないけれど、たかだか人を何人も殺したっていうだけでいい気になってるなよ。オレがその沢山殺した殺人者をぶっ殺せば、あんたのその肩書きもどっかへ弾け飛ぶ。
「違うな鋼の。肩書きというのは一生だけでは済まないものさ。後世にだって語り継がれていくのだから」
減らず口はそこまでにしておきましょうね英雄さん。オレはそんな栓もない話をしたい訳ではないんです。皮肉が本業みたいな奴にちっぽけなアイロニーなんか通用しないとは思うけれど、まあこれはこれで。右手をゆっくり持ち上げる。(鋼と鋼のコントラストはとても美しくなんかなかった)。さあこれで終わりにしよう。
「本気か」
今更なことを訊いてくるものだから、あまりにもおかしくてつい笑い声を上げる。本気でなければなんだというのだろう、この人は。オレが冗談で終わらせるつもりなんか毛頭ないと知ってるくせしてまだ期待しているのだろうか。それならば残念無念、オレには何を言っても、何を願っても無駄だよ。すべて捻り潰してあげる。期待なんか期待なんかすべて葬ってあげるよ。
「オレと同じブロンドの彼女によろしく」
「あの世で、か」
察しがいいね、賢い大人は嫌いじゃない。ああでもせめて泣き喚いてくれたりとかしてくれればオレだってそこまで無慈悲じゃないし、多少なりと結果は変わっていたかもしれないのに。あんたはすかした面して飄々として冷や汗ひとつかかなかった。まるであんたとオレの格の違いってやつを見せつけられたようでオレとしてはものすごく気に入らないことではあったけれど、さすがと賞してあげるよさいごくらいは。ねえ、イシュヴァールの英雄さん?




(恋は盲目とはよく言ったもので)
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