ぐんじーん。
無価値な認識の末に
(浸透圧の抑制)









戦場で再会した彼は酷く驚いた顔でオレを見ていた。何しろ状況が状況だったものだからそのときは深く追求されるのを逃れることができたのだけれど、その目は何故君がこんなところに、ととても言いたそうにしていた。特に、理由はない。そう返せば怒るだろうか。それとも呆れてしまうだろうか。どちらにせよ自分にはどうでもいい些事であったので、それは無視することにする。
四方八方に飛び交う鉛玉を受ければまず間違いなく死ぬ。死にたければ戦場の真っ只中に飛び込んでいくだけでいい。頭のいかれた奴と見なされた挙句、そのまま出血多量とか適当な死因をつけられて放置される。馬鹿な奴だと哂われるかもしれない。まあそんなのが本当にいるとしたら驚きだけれど、少なくとも自分はこんなところで死にたくなどないので、僅かな空気の変化を読み取って避ける。人間のなせる業ではないなと、ふと思った。
戦争で要求されるのは何かと、常に考えていた。ちゃんとした結論が出たことは一度もない。強さとか、油断しないとか、甘さを捨てるとか、非情になるとか、色々あると思う。こうして戦地に送り出される前に言われた教えの中のひとつだし、それに間違いはない。取り敢えず、とにかく兵士は上官の命を素直に忠実に遂行して、限界まで戦えばいいのだけれど。オレのその上官が運悪く身罷ってしまったために、今度オレの所属する隊を仕切るのが彼になってしまったときは、いっそ鉛玉に飛び込んでしまおうかと思った程だった。
少しだけしゃがれた声。彼はオレの名前を、呼んで。以前なら絶対に使わなかった敬語をオレはあえて使った。自分から壁をつくった。彼の黒い瞳しか見ることができず、だからぐっとその目と近づいたときは何が起こったのだかまったくわからなかった。彼が何か言っている。首が、呼吸が乱れて、ああ襟元、掴まれているのか。昔と変わらず赤い練成陣のある手で、彼と同じ青い軍服の襟を。
―――これはひとをころすいろだ。
この認識は、多分正しい。


「見て、たいさ。オレこれからひところしちゃうよ」





071231
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