魚のまなざし つよいひとだったのに、 壊れてしまった。望んでさよならだ。上書き保存、してしまったような感じだ。勢い余って、デリートしてしまったような気持ちだ。流れるような金髪が頬にかかっているのを、払った。 自分に何ができるかと問うた目の、瞳の意思はどこへ。 (虚ろさを、空ろさを、うつろさを、繋ぎとめていては) 何かを手に入れるために、躊躇はしないひとだった。容易に内側を開かないひとだった、そこに、私は惹かれたのだった。もしかすると、私よりも確固たる意思を宿していたのかもしれなかった。それを知る前に、一足早くのリタイアなど、誰が予想できただろう。 何も、終わりを考えなかった訳ではなくて、ただ、いつの間にか自信ができていたと、それだけのことなのだけれど。誰も__ことはないだろうと、何を思ったのか、どこからそんな自信が出てきたのか、不安定な未来を、私は、確信していたのだった。 おかしいと思う。 おかしいと、思う、 「……魚の眼を、知っているか」 「眼、ですか」 「奴らは瞬きをしない」 「はあ」 興味のなさそうな相槌には知らんふりをした。 「私も瞬きをせずにいられれば、大事なことも見逃さないと思うんだが、どうだろうな」 そう言えば彼女は、 「目が乾いてしまっては大変ですよ。あなたは魚じゃないんですから、余計ぱちぱち瞬きをしなくてはならなくなります」 「……なるほど」 ぱちぱち、なんて可愛らしい擬態語を使ったのがおかしくて、少し笑ってしまった。 おかしいと、思う。何故今になって、彼女との日々を(移ろう日々を)思い起こしてしまっているのか。 未来が、予測のできない、予測不可能なものであることを、忘れていたのか、? 私は、忘れていたのかもしれない。もしくは、忘れていたかったのかもしれない。 面影を失って、ただの虚無へなり下がって。 私は、光の届かない目を覆い隠した。誇らしげに笑むあの鳶色の目が、どこにもいない。
それはまぼろし、 |