( みずのなか、まぼろしをかきなでるままに )  --080503















魚のまなざし
(神さまは手のひらを引っ繰り返すのが得意なのよ、早く気づいて)

























つよいひとだったのに、


壊れてしまった。望んでさよならだ。上書き保存、してしまったような感じだ。勢い余って、デリートしてしまったような気持ちだ。流れるような金髪が頬にかかっているのを、払った。

自分に何ができるかと問うた目の、瞳の意思はどこへ。
(虚ろさを、空ろさを、うつろさを、繋ぎとめていては)

何かを手に入れるために、躊躇はしないひとだった。容易に内側を開かないひとだった、そこに、私は惹かれたのだった。もしかすると、私よりも確固たる意思を宿していたのかもしれなかった。それを知る前に、一足早くのリタイアなど、誰が予想できただろう。
何も、終わりを考えなかった訳ではなくて、ただ、いつの間にか自信ができていたと、それだけのことなのだけれど。誰も__ことはないだろうと、何を思ったのか、どこからそんな自信が出てきたのか、不安定な未来を、私は、確信していたのだった。

おかしいと思う。
おかしいと、思う、


「……魚の眼を、知っているか」
「眼、ですか」
「奴らは瞬きをしない」
「はあ」
興味のなさそうな相槌には知らんふりをした。
「私も瞬きをせずにいられれば、大事なことも見逃さないと思うんだが、どうだろうな」
そう言えば彼女は、
「目が乾いてしまっては大変ですよ。あなたは魚じゃないんですから、余計ぱちぱち瞬きをしなくてはならなくなります」
「……なるほど」
ぱちぱち、なんて可愛らしい擬態語を使ったのがおかしくて、少し笑ってしまった。



おかしいと、思う。何故今になって、彼女との日々を(移ろう日々を)思い起こしてしまっているのか。
未来が、予測のできない、予測不可能なものであることを、忘れていたのか、? 私は、忘れていたのかもしれない。もしくは、忘れていたかったのかもしれない。

面影を失って、ただの虚無へなり下がって。
私は、光の届かない目を覆い隠した。誇らしげに笑むあの鳶色の目が、どこにもいない。












それはまぼろし、
(水の中なんかに落とされて、一体誰が息をできると言うの)


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