期待を込めて名前を呼んでいる。けれどもその度に絶望に突き落とされる。この世界の彼とあの世界の彼は完全な別ものだ。だけれど見てくれが完全に一緒だから、同一だからオレは激しい思い込みで彼に何度も近づく。そしてその度その都度等しく深く絶望まで突き落とされる。 彼を見つけたときはそりゃもう泣いた。思わず泣いてしまうくらいの喜びだった。何も考えず彼に声をかけたつもりだったけれど、もしかしたらオレの意図しないところで打算に頭が回っていたのかもしれない。オレは彼からもう二度と離れるものかと彼の後をついて回った。 彼はオレの求めていた彼ではないのに、オレはそんなことも忘れてしまったように彼に抱きついた。勢い余ってキスもした。彼も同じ気持ちに違いないと思っていた。否、思っていたというより確信していた。 突き放されるのは瞬時だった。 彼はオレを蔑んだ。頭がおかしいんじゃないのかと吐き捨てられた。そんなことはない、そんなことはないのだ。オレは彼だからそういう行為に及んだのだ。けれど彼の視線は終始冷たすぎた。 お前の理想を俺に押しつけるなとか、お前の持っている人物像は俺には合わないとか、言われた。 期待を込めて名前を呼んでいた。声に出してたった二文字。欲望に飲み込まれるのは一瞬で、絶望から這い上がるのも一瞬だ。オレは何度も何度も何度も何度も這い上がって飲み込まれるのだ。だってまだ、オレは信じている。 |
rot
(090330)(ミュンヘンのロイとエド)