はがね――ミュンヘン。






おっと。

まだこの世界の義肢に慣れていない。ごつごつと憎たらしい石畳に足を取られ、よろめいたところでがっしりと、咄嗟に伸びてきた腕がオレを支えてくれた。
大丈夫ですか。苦笑する穏やかな彼。大丈夫だよ、ありがとう。オレは腕から離れ、直立する。不覚だった。恥ずかしい。
恥ずかしいことなんてないですよ。さあ行きましょう。



地平線の向こうでは、太陽がゆっくり沈んでいく。あっちではどうなんだろう、やっぱり同じように、今、夕日が綺麗なのかな。太陽はいつもどおり、オレがいた頃のように、変わらず赤く燃えて沈んでいっているのだろうか。
懐かしいな。帰りたいな。でももう駄目かもしれない。
そんなことを言ったら、お前はきっと怒るだろうな。

懐かしい。皆元気にやっているだろうか。オレがいなくても平気なんだろうか。だったら別に、オレはこのままでもいいかなって思ったりするんだ。


夕日に気を取られて、オレはまた転びそうになった。ともすれば腕を掴まれ、引き上げられる。
気をつけて。
でも隣には受け止めてくれる奴がいるから、オレは何度でも転びそうになる。きっと助けてくれる、だから注意して歩こうとか思わない。



元気でやってるか、弟よ。
兄ちゃんはこっちの世界でも、大事なもんができちまった。だからもう少し、ここでこいつと過ごしていたいと思うんだ。





名前を呼ばれた。何? 彼は手を差し伸べる。オレがまだ疑問符を浮かべていると、手、繋ぎましょうと言われた。
いや、大丈夫大丈夫。一人で歩けるよ。でも、と彼は心配そうな顔をする。
早い内、これに慣れとかないと。この世界での義肢は、あっちみたいに万能ではないらしいから。早くちゃんと歩けるようにならないと。
それに、お前と手を繋いだら駄目だと思うんだ。
どうして? 首を傾げられる。


お前と関わって、ただでさえこっちに未練が残ったってのに、手なんか繋いだら余計帰れなくなるだろ。


……いつか、帰ってしまうんですか?


意地悪だったかな、と思いつつも、返事はしなかった。
この手を繋いでしまったら、オレはきっと振り解くことができないように思う。固く握り締めた手を、離すことができないように思うから、






手は繋がない





070311
ハイデリ大好きです。アルよりハイデリ……。

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