でぃぐれ――荒唐無稽! ※ノアレです。






今自分が抱えているものはなんだろう。と考えたらそれは切りがない。例えば「不安」といった感情類。例えば「責任」といった義務類。例えば「誰かの骨」といった、戦争の爪痕。単刀直入に言わせてもらおう、僕は今、―――――――――誰のとも知れない骨を抱えて、眠っている。空想じゃない。お伽でもない。僕の腕の中にあるのはまぎれもなくそれなのだ。冗談などではなく、僕は骨を、抱えているのだ。
ああ、とうとう頭がおかしくなったんだな。そう思ってもらって構わない。だって本当にそのとおりなのかもしれないから。意味がわからないのは僕もだから。何がどうなってこうなったのか、僕にも、わかっていないのだ。
思い出そうとすると頭が痛くなる。荒唐無稽な話をしていると自覚しているけれど、こればかりはどうしようもない。抱き締めていた骨を見ても、何も思い出せなかった。
―――怖いとかおぞましいとか、そんな気持ちにはとてもならない。こうして誰のものなのか不明の骨が、どこか神聖で、どこか郷愁めいたものであるかのように思える。真逆の感情を僕は抱いているのである。神聖さと懐かしさを合わせもつこの骨は、けれど何も言わず、僕の胸にある―――







「アレーン?」
「……あ。あ?」
「大口開けて寝てんなよぉ、折角綺麗な顔してんだからさぁ」
「それは……すいません……?」
「まだ寝てるー」

―――急に現実に引き戻された、ということ、だろうか。き締めていた筈の骨は、どこにもない。空想でもお伽でもなく、ただの夢、?
(ああなんだ)
ただの夢、か。
「……どれくらい、寝てました?」
「軽く三十分くらいかなぁ。もっと寝てればぁー?」
「いえ、……」
椅子で寝ると肩が凝るというのに、また僕は本を読みながら寝てしまっていたらしい。肩だけではなくて、首も痛い。痛んだ首を左右に傾けながら、膝の上に放置されていた本を閉じる。……ロードはそんな僕をじっと観察するように眺めている。
「あの、何か」
「んーん。どんな夢みてたのかなってさぁ。骨、とか言ってなかったぁ?」
(あー、)
「……忘れちゃいました」
笑いながらそう言うと、ふーんと含み笑いを返された。
「骨って言えばさあ、知ってるぅ? キミがやたら気にかけていあのエクソシスト、死んじゃったんだってさ」
「気にかけていた訳じゃないですけど―――よかったじゃないですか、うざいのがひとり、死んでくれて」
「そうだけどぉ……以外に驚かないんだねぇ。アレンの慌てふためくさまが見たかったのに」
「……いい趣味してますね」
「アレンに言われたくないよぉ」



―――何故驚かないかって?
そりゃ、僕が手にかけたからに決まっている。僕がやったんだ、自分でやったことを驚く奴なんていないだろう。

けれど、そこで初めて自覚する。あの骨は彼のものだったのだ。ぼろぼろになった彼を抱き上げたときを思い出しての郷愁、命尽きるまで神の使徒として戦い抜いたからの神聖さ。抱き締めた彼はもう砂になって散らばって、腕に残ったのは摩りきれた骨のみ。力を失い天を仰ぐしゃれこうべに僕は口づけた。
それは空想やお伽などではなかった。まして夢でも。
すべては現実に起こったことで、実際にそれを見た訳で、僕は僕の手によって終わらせたのであって―――……。



(呆気ない)

本当は、少しだけ、彼は同族かもしれないと思っていた。だって傷なんてすぐ塞がってしまうし、どれだけ殺されてもぴんぴんしてるし、もしかしたらこの人間は不死なのかもしれない、と。そんなことある訳ないのに僕はそう思ってしまったのだ。ほっとした。
彼が他の奴らに殺されるだなんて許されない。初めて会ったときから、僕は決めていたのだ。彼を殺すのは後にも先にも僕だけだと。矛盾しているだろうけれど、そう、決めていたのだ。

「でも、……しあわせ、じゃ、ないですか」
「どしてぇ? 長生きした方がいいじゃん」
「長生きとかじゃなくて、えっと……、うーん……なんでしょうね?」
少しだけ可愛こぶって言ってみる。ロードは呆れ顔だった。
「……アレンが言葉に詰まるときは、ちゃんとした理由があっても教えたくないときか、ほんとに思いついてないとき。だよねぇ?」
「さあ、どうでしょうね」
「わあ性格悪っ」
「お互いさまです」



きっととても歪んでいるのだろう、彼に対して抱くこの想いは。
彼には僕しか見ていてほしくなかった。僕だけを見つめていてほしかった。その顔が、どんなに青く、赤く染まろうとも、彼の目が、他の誰かを映すことも僕は我慢ならなかったのだ。

―――……別にね? ……奪われる前に奪っただけなんですよ」
「あらら、意味深な発言」
ロードは面白そうに目を瞬いただけで、それきり何も言わなかった。








「僕の手の中で死んでいったよ」
僕はまるで小さい子供にお伽話を聞かせるように語る。
「焼き尽くされて、滓みたいな骨がさらさらと宙に舞っていて、僕はそれを手で掬った」


興味がなさそうに揺り椅子を揺らしていたロードは、はたして聞いていたのかどうか。






骨壺





070801
なんか最近ミステイク犯してばっか……!

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