無差別パラレル浪漫荘(拍手再録)

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で。
前回、浪漫荘という名前由来は訊きそびれたので、引きつづき継続中。今度は推察はなしで、直に訊いてみることにしました。

「名前の由来?」
「そう」
アレンとエドワードは同時に肯定し、頷いた。
「由来ね……君たちが面白がるようなのではないよ?」
ロイはエプロンで手を拭いて、シンクに背を向けた。丁度洗いものしているところに直撃されたのである。いつもならこれはエドワードに割り当てられる仕事だが、基本的に暇な大家が自分でなんでもやってしまうので、結局アレンとエドワード、ラビの三人が家事を手伝うことはほとんどない。
「いいよ別に。なんか気になるだけだし」
「……それじゃあ別段、面白くない」
にやり、とロイは意地の悪い笑みを浮かべる。意地悪というよりこれから悪戯をする子供のような笑みだ。
「面白い面白くないの問題じゃ……」
「いいや、そういう問題だよ、アレン」
「じゃ、何すんの?」
エドワードが尋ねると、ロイはよく訊いてくれた! と何故か得意げな顔になった。
「ただ私がほいほいと教えるだけじゃ、つまらないだろう」
「オイ」
「鋼の、君は『等価交換』という言葉が好きだったな」
「等価交換て?」
聞いたこともない言葉だと首を傾げるアレンに、エドワードが軽く説明する。
「価値や価格が同等のものを互いに譲渡し合うこと、だな」
「ていうことは、ロイさんは浪漫荘の名前の由来を教えるかわりに、何か別のものを寄こせってことですか?」
「人聞きの悪い言い方だな……まあ、そういうことかな。で、君たちにはあることをやってもらおうと思う」

あ、嫌な予感。二人はちょっと後悔した。





「……ここはどこですかメイド喫茶ですかねえ!!」
ラビが帰宅すると、玄関で待ち構えていたのは、ふりふりのメイド服を着用したアレンとエドワードだった。艶のある黒いサテン生地に、これでもかとふんだんに縫いつけられたレース。丈の短いスカートから覗く、ニーハイソックスに包まれた健康的な足。そしてメイドさんには欠かせない、リボンとレースの可愛らしいカチューシャがふたりの小さな頭に乗っている。
「確かに可愛いけどさあ、……かなりビビるってこれ」
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「オレご主人じゃねえけど!?」
声を揃えて言う二人に、ラビは思わず突っ込んだ。もう本物のメイドさんにしか見えない。
「そうでしたか?」
「そうですよ! ってかふたりどーしちゃった訳? なんかの罰ゲーム?」
「罰ゲームっちゃ罰ゲームかもな……」
大袈裟に溜息を吐くエドワードの目が死んでいる。というか黄昏れている。
「あー、えっと、ロイ! ロイは? 状況説明がほしい!」
「ああ、ロイならリビングに……」
三人が玄関に立ちつつ会話をしていると、今度は神田が帰宅した(何度も言うが彼は隣の部屋の住人である)。神田はドアを開け、メイドさんを眼中に収めたところで――
「ぐぼぁあっ!!」
怪しげな叫び声を上げ、そのまま後ろ向きにばたりと倒れた。
「あ、ユっ……え、鼻血!?」
「こいつ……属性ハゲタカかと思ってたけど、実はただの変態だったのか」
「変態ならロイさんだって一緒ですよ」
「聞き捨てならんな、それは」
「うわっ」
「ていうかあんたがメイド服なんか着させちゃったんかよ!?」
「そうだが、何か問題でもあったかい?」
「いやむしろグッジョブ!!」
「ラビ……」

ということで、ロイの言うあることとはこういうことだった。

「あ! ロイさん、まだ由来教えてもらってないんですけど!」
「それはまた後日」
「てっめえ等価交換だろ!?」


――結局この日、浪漫荘の秘密が紐解かれることはなかった。



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