無差別パラレル浪漫荘(拍手再録)

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「なんか、いいように丸め込まれた気がする……」
「オレもそう思う……」
前回と前々回に渡り浪漫荘の秘密を追っていた二人だったが、前回、浪漫荘のネーミングの由来と等価交換としてメイドのコスプレまでしたところで、ロイにはぐらかされてしまったのである。
「ていうかそれはないでしょう! エド、ちゃんと言ってくださいよ。等価交換ってよくわからないですけど、でも約束は約束でしょう!?」
「あっちぃいあ!!」 アレンが憤懣やるかたないといった様子でべしんとテーブルを叩くと、そこに置かれていたカップからお茶が盛大に飛び散ってエドワードが悲鳴を上げた。
「あ、ご、ごめん、大丈夫?」
「大丈夫だから、落ち着こうぜ? な?」
「とても落ち着いていられないよ、あんな屈辱的な……! 男なのにスカート……!」
思い出すと怒りで手が震えるらしく、アレンはぐう、と呻いて手を握り込む。それに対してエドワードは、もう随分と諦めモードに突入してしまったようで、完全に脱力してソファに身体をうずめてしまう。
「そりゃそうなんだけど……なんかオレ、疲れたし。あんなことされてさ、もうお嫁にいけない!」
「お前男だろ」
わあっと泣き出すエドワードにアレン、無情の突っ込み。
「まじで突っ込むな。ただのジョークだジョーク」
「もしかしてエド、そっちのケが……?」
「そっちってどっちだよ。ジョークだっつってんだろ」
「なんだよつまんないの」
「なんですかソレ!?」
今日はいつも以上にアレンの態度が冷たい。完全に八つ当たりだと思うが、今アレンに何か言うのは火に油を注いでしまうだけのような気がして、エドワードもあえて触れないでおくことにした。
「……そんなに気になるんなら、お前だけでも訊いてくりゃいいじゃん」
「は? 後で教えて教えてーって泣いても絶対教えませんよ?」
「いいよ別に……つか泣かねえし」
「わかりました」
アレンはすっくと立ち上がる。なんとなく、何か吹っ切れてしまっているような目をしている気がする。どうやら何かのスイッチが入ってしまったようだ。
「ア、アレン?」
「今更遅いですよ。ぼかぁやります。誰がなんと言おうとやっちゃるけんに!」
「え、どこの言葉? 何語?」
「謎は謎のままでいい筈がない……答えはその手の中にぃいいー―――!!」
「えっあっちょっ……! ロイがどこにいるか知ってんの!?」
気が触れたかのように突然叫び出し、いつも体育をサボるくせにそのままものすごい勢いでアレンは駆け出してしまう。呆気にとられつつもエドワードがそう叫ぶと、バックの状態でアレンは帰ってきた。
「そういえば知らなかったっ」
「書き置きによると、駅前のスー」
「ありがとっ」
そこまでで十分だったのか、アレンは最後まで訊く前に再びマッハで飛び出した。
「パー……って、まだ全部言ってないのに……」
事故らなきゃいいんだけど、とエドワードは溜息を吐く。彼が全力で走っている姿など、はじめて目にしたかもしれない。



アパートから文字どおり飛び出したアレンは、その辺に放置してあった自転車を拝借してかっ飛ばしていた。びゅんびゅんと赤い自転車は風を切って走るが、それが立派な盗難だということはアレンの頭にはない。
「えっ――――――
まさに全速力で道を突き進んでいた自転車だが、いくらなんでも限界がある。アレンが勢いよくペダルを漕ぎすぎたのか、激しい音を立ててチェーンが外れ、赤い装飾が素敵なその自転車とアレンは投げ飛ばされるようにして宙を舞った。
――ちょわわわわっ!?」
(すごい、もしかして僕、飛んでる――?)
と思ったのも束の間、次の瞬間には、アレンはかたいアスファルトに叩きつけられていた。
「っだ〜〜〜〜〜〜〜
「だっ、大丈夫さ!?」
そこへ都合よく救世主登場。たまたま近くを走っていたラビはオートバイを路上に止め、慌ててアレンに近づいてきた。
「はれ、らび……?」
「え、お前意識飛びはじめてる!?」
「んー……らいじょぶ、ちょっと目え回ってるだけ」
「お前なあ……つかこの自転車、誰んだよ」
「えー? その辺にあったやつを、ちょっと……」
「犯罪だ! でもまあ、こんだけ派手にぶっ壊れてるし、言わなきゃばれねえか」
実はアレンに負けず劣らずラビも腹黒だった、というか彼は弁償したところの金銭面を案じているだけだった。
「で、どこに行く予定だったんさ?」
「駅前のスーパー。そこにロイさんがいるって、エドが……」
「はあ? ロイになんか用でもあんの? 電話とかあるだろーに」
電話と聞いた途端、アレンは驚きのあまり目を瞠り、頭を抱え込む。
「そうか電話か……そんな奥の手が……」
「いやこれ全然奥の手じゃないけど」
「いいや、もう。ここまできちゃったし。ロイさん待ってるのもあれだし」
「私ならここにいるが」
これまた都合よく登場したのはロイだった。この物語は都合よさも兼ね揃えて進んでおります。
「ロイ産! 今日こそは浪漫荘の由来とやらを、細、かく……ガクリ」
「私はロイ産じゃないのだが……」
「てか今こいつ『ガクリ』って自分で言っちゃったよ!?」


結果的に、この日も浪漫荘の秘密を知ることはできなかったとさ。



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