無差別パラレル浪漫荘(拍手再録)

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「……ストライキぃ?」

「そう、ストライキ……あ、別にボイコットでもいいんですが」
はん、と鼻で笑った後、警官はにっこりと目を細めて笑った。
「まあ、詳しい話は署で聞こうか」
「ボクたち、話すことなんてなんにもないんデスケド……」
語尾が片言になりつつも、エドワードも負けじと笑顔で返す。警官と学生ふたりの奇妙な攻防戦がはじまろうとしていた。
「君たち、中学生?」
配慮の欠けたもの言いをする警官に、腹を立てたのは当たり前だがエドワードの方だった。
「高、校、生、だっつーの! そんなに中坊に見えんのかよオラァ!!」
「ちょっとエド、落ち着いてよ」
(くだらないことで反論してないで、さっさと逃げなきゃ)
止めに入ったアレンの言外の意味を汲み取り、エドワードも了解した、という意味でこくりと頷く。
「えーっと、君たちどこの高校生?」
「あっ、UFO!」
「どこに!? ってこら待ちなさい!」
「バー―――カ!」
本当にこんな陳腐な手に引っかかるような馬鹿で助かった、と思いながら、アレンとエドワードは全速力で駆けて行った。




「……っはあ、は……っ」
「う、上手く撒けましたかね……っ?」
息も絶え絶えに、ふたりは鞄を地面に放り投げ、前屈みになる。
「大丈夫だろ、多分……。オレらに適う奴なんて、そうそういねーよ」
「そりゃそうですね……」
長距離になるとわからないが、アレンとエドワードのふたりは、短距離走ならこの学区内でもっとも速い――ともっぱらの噂である(ただし出所は不明)。ただそれは、単純に逃げ足が速いだけ、とも取れなくもない。
「どうしよ、神田見失っちゃった」
「バイト先はわかってんの?」
「んー、大体……。でも今日はどこ行ってんのかわかんないし、どうしようもないかも」
「そうかー」
今日はもう学校へ行くしかない、という結論に至り、ふたりはそこから学校へと歩き出した。
「僕、学校休んだことないからわからないんですけど、休みの日って家に連絡くるものなんですかね」
「どーだか。学校によるんじゃね? ……お」
声を上げ、エドワードは無造作に鞄から今なお震える携帯を取り出した。それを見て、アレンが声を荒げる。
「けーたい! なんで持ってるの!?」
「へへ、内緒」
「まさか、それロイさんに出させてるんじゃないよね。うちの家計は火の車なんだよ!? それなのに、そんな、携帯とか……っ。ラビだってすごく怒るんだから!」
「だーいじょうぶだって。ロイの金なんか使ってねぇし。つか火の車って……お前だってめっちゃ食うじゃねーかよ。人のこと言える立場か」
「僕はいいんですよ! 僕とラビは、ちゃんと食費払ってるんだから。でもエドは違うでしょ」
「ばっ、なんでオレが払わなきゃいけねぇんだよ。オレは住みたくてあそこに住んでる訳じゃねーっつの」
「じゃあなんで住んでるの」
「それは、その……」
「ほら、何も言えない」
「うっせー!! とにかく電話取らせろよ!」
「勝手に取ればいいじゃないですか!」
「お前が黙らないからだろ!?」
「何その言い方!」
至極どうでもいい痴話喧嘩をつづける間も、携帯の着信は止まずにいた。それどころか、出るまでかけつづけてやる、という相手の意志が伝わってくる――などとはちっとも思わずに、エドワードは気軽に通話ボタンを押した。

「コラー―――――――――!!」

「ぎゃぁあっ!?」
ふたりの息のあった叫び声よりも、スピーカーから流れてきた怒声の方が遥かに大きく、そばを通る通行人たちも一瞬飛び上がる程だった。
「ら、らび……?」
エドワードがぼそりと呟く。小声でアレンが「どういうことですか、なんでラビはキミの番号知ってるんですか!」と問うてきたが、それに答える暇もなく、ラビが矢継ぎ早に喋り出す。
「お前ら今どこにいんだ!! 今なあ、お前らの担任から『ウォーカーとエルリックが揃って欠席しているんですが、何かあったんですか』って電話きたんだよ!」
「こ、ここは容赦なく連絡するタイプなのか……」
「ああ!? どこにいるんだって訊いてんだよ!」
「え、えっと、」
ちら、とエドワードはアレンを見る。まさか「神田の後をつけてましたー! ストーカーってましたー!」などとは口が裂けても言えない。アレンはふるふると首を振る。どうやらそれだけは言っちゃ駄目、の合図らしい。
エドワードは取り敢えず周りを見渡し、現在位置を告げる。ラビの血管が切れる音が聞こえた気がした。
「学校からすげえ遠いじゃねえかよ……!」
「お、落ち着けって、な?」
「落ち着けるか馬鹿! ロイが留守の間、家のことはオレに任されてんだよ。それには勿論お前らだって入る。お前らがサボったってばれたら怒られるのはオレなんだからな!」
ラビは神田と同い年だったが、彼とは違い、大学へ進学することはしなかった。そのかわり、新しい住居先を見つけるまでは、と今と同じ生活をつづけている。大家が買いもの等に出かけるときは、ラビがそのかわりの役目を果たす約束だった。
「お前ら知ってるか? ロイが怒ったらな、笑顔でとんでもねーこと要求してくんだぞ……」
不意に、声が低くなる。エドワードの持つ携帯に耳を押し当てるアレンとエドワードは、息を呑んだ。
「と、とんでもねーこと……?」
「お前らだって体験しただろ。あの人の意味不明さを……!」
「ぉおああ! したした、あのメイドだろ!?」
アレンとエドワードには、自分たちの好奇心のためにあられもない格好をさせられ、しかもそれがなんの意味もなさなかったという哀しい(を通り越して愉快でもある)経験がある。
「このことは今回限り、内緒にしてやる。オレだってお前らのこと可愛いと思ってるし」
「さんきゅうラビ! 恩に着ます!」
「だったらさっさと走って学校行け!!」
「はぃいっ!!」

そんなこんなで、またしてもふたりは猛ダッシュで学校まで走っていくのだった。

「ロイよりラビの方が怖えんだけどっ」
「同感ですね、僕もそう思ったところです!」



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